診療科
糖尿病内科
疾患別コラム
糖尿病(ダイアベティス)
糖尿病の定義
私たちが生きていくための身体活動にはエネルギーが必要ですが、その代表的なものが血液中のブドウ糖です。その濃度である血糖値は本来高くも低くもならないように調節されていますが、糖尿病は血糖値が慢性的に上昇してしまう疾患です。病名には「尿」という言葉が入っていますが、尿糖の有無とは関係なく、その本体は「高血糖」にあります。
糖尿病の歴史
糖尿病と人類の関わりは非常に古く、以下のように多くの記録が残されています。
- 糖尿病と思われる最古の記述としては、紀元前1500年、エジプトのパピルスに「多くの尿を出す病気」
- 5世紀のトルコ、カッパドキア地方の記録に「多尿病」「尿が小川のように流れる」
- 6世紀のインド 糖尿病の症状として「蜜尿」という記述。尿が甘いことが注目。アリや犬が尿にたかることから気づいたらしい
- 7世紀の中国では「消渇(しょうかち)」喉が乾くという症状から名付けられ、この名は遣唐使によって平安時代の日本に伝わり広がります
- 10世紀の日本では「飲水病」と呼ばれ、藤原道長らがかかったという記述があります
- 18世紀のヨーロッパで尿の甘味がブドウ糖であることが分かり、そこから「糖尿病」の名が生まれたようです
糖尿病の治療目的は、血糖値を下げることではありません。血糖値をコントロールすることで、合併症の発症を予防し、いつもの日常生活を維持していくことです。そのためには、「早期発見」と「治療の継続」が何よりも大切です。
糖尿病の原因
血糖上昇の原因は糖代謝に関連するホルモンのバランスの乱れに伴うものです。多くのホルモンが血糖の調節に関わっていますが、血糖の上昇を抑制するホルモンの中心は膵臓のインスリン産生細胞(β細胞)から分泌されるインスリンです。インスリンは体の細胞が血液中のブドウ糖を燃料として取り込むときに必要なホルモンで、糖尿病による血糖上昇はこのインスリンの分泌低下が主因となっています。そして、インスリンの分泌低下の原因により、糖尿病はいくつかのタイプに分類されます。
糖尿病の分類
1型糖尿病
1型糖尿病は、膵臓のインスリンを産生するβ細胞が急速に破壊されることで発症する疾患です。2型糖尿病と違って主に小児や若年成人に発症することが多いですが、あらゆる年齢で発症する可能性があります。また、日本人には少なく欧米人に多く発症します。
1型糖尿病の正確な原因は不明ですが、ウイルス感染をきっかけにした自己免疫反応が関連しているとされています。
2型糖尿病
2型糖尿病は1型糖尿病とは異なり、生活習慣や遺伝的要因が主な原因とされています。生活習慣の乱れやそれに伴う肥満(特に内臓脂肪肥満)はインスリンの効き目の低下(インスリン抵抗性)をもたらし、それによるインスリンの必要量の増加からβ細胞が疲弊しやすくなります。そこに運動不足(インスリン抵抗性の上昇)や不健康な食生活(高カロリー・高脂肪食:必要インスリン量の増加)も加わって2型糖尿病のリスクが高まります。日本人を含む東アジア人は民族的に膵臓が疲弊しやすい体質の人が多いとされており、欧米人に比して軽度の肥満でも糖尿病を発症します。加齢も関係するため成人に多く見られますが、近年では小児の肥満や生活習慣の変化により若年層にも増加しています。
糖尿病の症状
糖尿病による症状は、血糖上昇による直接的なものとそれが長期に続いたために起こる合併症による間接的なものにわけられます。
高血糖による症状
- 口渇・多飲・多尿:高血糖による口渇と尿量増加
- 易疲労感: 体がエネルギーを効果的に利用できないため
- 視力低下: 血糖値の変動によりピントが合わずに視力がぼやける
- 体重減少: インスリン不足により細胞内にブドウ糖が取り込まれず、急速に体重が減少する
- 感染症: 免役機能が低下して感染症にかかりやすくなる
- 創傷治癒の遅延: 傷が治りにくくなる
合併症による症状
合併症の項を参照
備考
1型糖尿病では急激な血糖上昇を来すことが多いことから高血糖による症状が出やすく、発症時に嘔気・嘔吐・腹痛を訴えることがあります。また、インスリン分泌低下が進行すると高血糖や代謝障害による意識障害を来し、治療が遅れると死亡のリスクもあります。
2型糖尿病は発症がゆっくりのため殆ど無症状のことが多く、そのため発見や治療が遅れる原因となります。
糖尿病の急性合併症
高血糖性昏睡
極端な高血糖により脳の活動が阻害され、意識障害を来します。1型糖尿病の発症時に起こることが多いですが、2型糖尿病や境界型でも清涼飲料水の多飲などの糖質の大量摂取で起こることがあります。非常に重症であり、治療が遅れれば後遺症や命に関わることがあります。
低血糖性昏睡
低血糖による脳の燃料不足で脳の活動が阻害されて意識障害を来します。通常は血糖の低下に伴う症状(低血糖症状)があるため、そのときに糖分を摂取することで予防できます。近年は経口血糖降下薬や注射薬の発達によりリスクは下がっていますが、薬物療法を受けている患者さんはブドウ糖や砂糖を携行するなど、引き続き注意が必要です。
糖尿病の慢性合併症
糖尿病のタイプを問わず、高血糖状態が長期間続くことで血管壁が傷害されて血管壁の破綻や血管閉塞が起こり、そのため様々な合併症を発症します。高血糖が大きな血管から顕微鏡でないと見えないような毛細血管まで全身の全ての血管に影響を及ぼすことから、合併症は全身の至る所で様々な臓器障害として出現します。
大きな血管(大血管)はいろいろな臓器へ血液を送る本管なので、これが傷害されて閉塞すると心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高くなります。これらは血管の障害自体はゆっくり進行するものの閉塞による症状の出現は突発的なことが特徴です。目の奥の網膜は外の景色が映るスクリーンの働きがありますが、そこで細い結果から出血がおこると急激な視力低下が起こります。また、腎臓や神経周囲の毛細血管が障害を受けると少しずつ機能が低下して腎不全や神経障害が出現しますが、これらは症状の出現はゆっくりながら確実に進行してし、尿毒症から透析が必要になったり、痛み止めが効きにくい神経痛に悩むことになります。そして、高血糖が長く続くほどに一人の患者さんに複数の合併症が重複するため、壊疽からの足切断など、重篤な障害に繋がることもあります。
これらの合併症を防ぐためには、血糖値だけでなく血圧や脂質の管理も重要です。バランスの良い食事、定期的な運動、体重管理、禁煙、節酒など生活習慣の乱れの是正を行い、定期的な医療機関への受診が必要です。
治療
糖尿病の治療は、血糖値を可能な限り目標範囲に保ち、合併症を予防することを目的としています。この目標値は患者さんの身体的状況や社会環境などで変わるため、主治医との相談により個別に設定されます。
具体的な治療としては食事療法、運動療法、薬物療法が基本ですが、糖尿病のタイプによってそれぞれの重要度が変わります。
1型糖尿病の治療
1型糖尿病の主因はインスリン分泌低下のため、治療はインスリン治療が第一選択です。進行した1型糖尿病ではインスリン治療の中断は急性合併症を発症して命に関わります。食事療法や運動療法なども必要ですが、あくまでインスリン療法の補助として行われます。
近年の医学の発展のおかげでインスリンの種類も増え、治療法も進歩しています。ただ、2型糖尿病に比べて管理が難しいため糖尿病専門医による診療が勧められます。
2型糖尿病の予防と治療
2型糖尿病の治療は現存する膵β細胞の疲弊を防ぐことが重要です。そのため、生活習慣の改善が薬物療法よりも重要度が高く、それにより2型糖尿病の発症の予防にもつながります。
<生活習慣の改善>
- 食事療法
バランスの取れた食事を心がけ、特に炭水化物の摂取量に注意します。朝食を抜かないことや夕食はできるだけ遅くならないようにする、夜食は食べないなども重要です。
- 運動療法
定期的な運動は、インスリンの効き目を上げて膵β細胞の負担を軽減します。ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動が効果的ですが、通勤など、日常生活のリズムの中に上手に取り入れるとより有効です。筋肉トレーニングなどの無酸素運動も組み合わせるとさらに効果的です。
- 体重管理
肥満、とくに内臓脂肪を減らすことでインスリン感受性が上がって血糖が改善します。目標とする体重は患者さん個人に合わせる必要があるため、医師と相談して決めることが推奨されます。
<薬物療法>
- 経口血糖降下薬
以前は膵β細胞を刺激してインスリン運筆を促進する薬剤が中心でした。しかし、最近はインスリン抵抗性の改善、腸管からの血糖の吸収抑制。余分な糖分の尿からの排泄促進など膵β細胞に負担をかけない薬剤が中心になっています。また、インスリン分泌促進薬も低血糖を起こしにくくなり、より安全に服薬できるようになっています。
- 注射薬
インスリン注射は直接的に血糖を改善し膵β細胞の負担を取ることが出来ます。進行してインスリン分泌が極端に低下してしまった患者さんだけでなく、早期でも一時的に使用することで膵β細胞の疲労を取り、糖尿病自体を軽くすることが可能です。
また、最近はインクレチンという腸管から分泌されているホルモンも糖尿病患者さんでは低下しており、それを注射で補うことで糖尿病を改善させる薬剤も使用されています。
スティグマとアドボカシー
「糖尿病」から、世界の共通語である〝Diabetes″「ダイアベティス」へ
スティグマとは、特定の属性や特徴に対する誤った認識や偏見のことを指します。 また、スティグマを取り除くための活動をアドボカシー活動と呼びます。
日本の糖尿病の患者数は厚生労働省が発表した2019年「国民健康・栄養調査」の結果では男性の19.7%、女性の10.8%が「糖尿病が強く疑われる」と判定されています。このように日本人の約5人に1人が糖尿病の可能性があるにもかかわらず、社会における糖尿病の知識不足、誤ったイメージの拡散により、糖尿病をもつ人は「スティグマ」(社会的偏見による差別)にさらされています。
現在、日本糖尿病学会と日本糖尿病協会は糖尿病の正しい理解を促進する活動を通じて、糖尿病をもつ人が安心して社会生活を送り、人生100年時代の日本でいきいきと過ごすことができる社会形成を目指す活動(アドボカシー活動)を展開しています。そして、その一環として、少しずつ糖尿病の新しいイメージを形づくっていくために、「糖尿病」という病名を「ダイアベティス」へ変更することを提唱しています。
<まとめ>
いかがでしたか。
1型糖尿病は、過食や肥満などとの関連が薄く、自己免疫反応によって膵臓のインスリン産生細胞が破壊されることで発症します。現在、1型糖尿病を予防する方法は確立されていませんが、適切なインスリン治療と生活習慣の管理を行うことで、健康な生活を維持することができ、プロスポーツ選手として活躍している方もいます。
2型糖尿病の主因は膵β細胞の疲弊による機能低下であり、緩やかに発症・進展するため症状が出にくく、気づいていても治療されずに放置されがちの疾患です。しかし、高血糖を長期に放置することで全身の血管が傷害されて慢性合併症を発症します。この慢性合併症は全身に及ぶ可能性が高く、発症・進行すると改善が難しいためその症状で長期に苦しむことになるやっかいな病気です。
どちらの糖尿病も完治は難しいものの、早期に発見し適切に治療することで合併症を予防でき、健康な人と変わらない生活を送ることが出来ます。また、日本人に多い2型糖尿病は生活習慣の見直しで予防も可能です。みなさんもこれを機会にご自分の生活習慣を見直されてみてはいかがでしょうか。
Q&A
糖尿病は完治することがありますか?
現在のところ、1型糖尿病を完治させる治療法はありません。しかし、適切な治療と管理を行うことで、健康な生活を維持し、合併症を予防することが可能です。
旅行を計画していますが、糖尿病を持つ場合の注意点は何ですか?
旅行前には、旅程や食事の予定なども含めて医師に相談し十分な計画を立てることが重要です。常用薬以外にも必要に応じて低血糖時の対策として糖分補給のアイテムを準備します。1型糖尿病では特にインスリンや血糖測定器、予備のバッテリーなどを十分に準備します。また、時差がある場所に行く場合は、医師と相談して内服薬やインスリン投与のタイミングについても計画を立てておきましょう。
糖尿病を持つ場合、妊娠・出産についてどのような点に注意すべきですか?
妊娠初期から高血糖は奇形児出産や流産のリスクを高めます。ですから妊娠してから血糖を良くするのではなく、事前に医師と相談し、妊娠前から血糖値を良好にコントロールすることが重要です。妊娠中は頻繁に血糖値をモニタリングし、食事やインスリン投与を調整する必要があります。専門医の指導を受けながら健康管理を行いましょう。
1型糖尿病と診断されましたが、学校や職場でどのように過ごせば良いですか?
学校や職場では、まず関係者(教師、上司、同僚)に糖尿病について理解してもらうことが重要です。インスリン注射や血糖値のモニタリングを行うための時間と場所を確保できるようにし、低血糖時の対応策を共有しておきましょう。
1型糖尿病を持つ子供の親として、学校や日常生活で気をつけることは何ですか?
学校の教師やスタッフに子供の糖尿病について理解してもらい、インスリン注射や血糖値の測定方法、低血糖時の対応について共有することが大切です。日常生活では、バランスの取れた食事や定期的な運動を促し、血糖値を定期的にチェックしましょう。
1型糖尿病に適した食事はどのようなものですか?
バランスの取れた食事を心がけ、炭水化物の摂取量を管理します。低GI食品を選び、食事の時間を規則正しくすることで血糖値の安定を図ります。また、食事の内容に応じてインスリン投与量を調整します。栄養士の指導を受けることで、適切な食事計画を立てることができます。
1型糖尿病を持つ場合、アルコールを摂取しても良いですか?
アルコールは血糖値に影響を与えることに加えて、酩酊は本人の状況判断能力を低下させるため、摂取は適度な量にとどめることが大切です。速効型のインスリンを打つタイミングも重要で、炭水化物の摂取前かその後になります。また、飲酒後は低血糖に気づきにくくもなるので注意し、血糖値を定期的にチェックしましょう。
1型糖尿病を持っている場合、運動はできますか?
はい、運動は健康維持に重要です。ただし、運動による血糖値の変動に注意し、運動前後に血糖値をチェックし、必要に応じてインスリン投与量を調整することが必要です。
1型糖尿病の管理にはどのようなツールがありますか?
血糖値をリアルタイムで監視できる持続血糖モニタリング(CGM)やインスリンポンプなどのデバイスがあります。また、スマートフォンアプリを使用して血糖値、食事、運動などのデータを管理し、医療チームと情報を共有することができます。
2型糖尿病と診断されましたが、仕事や日常生活でどのように過ごせば良いですか?
仕事や日常生活では、血糖値を安定させるために規則正しい食事と運動を心がけ、インスリンや薬の管理をしっかりと行います。昨今はライフスタイルも多彩となり、本人にあった治療法の構築が必要のため、主治医との相談が必要です。また、職場の上司や同僚に糖尿病について理解してもらい、必要な時に協力が得られる環境を整えることも大切です。
2型糖尿病の管理をしながら運動を続けるにはどうすれば良いですか?
運動は血糖値の管理に重要ですが、リスクもあります。主治医と相談してメディカルチェックを行い、ウォーキング、ジョギング、筋力トレーニングなどの中程度の運動を定期的に行うように心がけましょう。
2型糖尿病といわれましたが、アルコールを摂取しても良いですか?
飲酒は体の多くの臓器に影響を与えます。肝障害の方など禁酒が望ましい方もおられるので、まずは主治医への相談が必要です。医師の許可が出ても過剰に摂取はせず、適度な量にとどめることが大切です。また、アルコールが低血糖を引き起こすことがあるため、注意が必要です。
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